生命科学・バイオテクノロジーシリーズ
2013年7月 8日 09:12
眠り病を治す薬の開発に向けて
眠り病ってどんな病気?
眠り病は、アフリカに生息しているツェツェバエに刺され、このハエに寄生するトリパノソーマという寄生虫が人の体内に入って感染する病気なんだよ。
トリパノソーマは人の血液中からリンパ腺へと移動し増え続けるんだ。すると、高熱・頭痛・嘔吐・リンパ節が大きく腫れるなど人の体に色々な症状があらわれ、ひどくなると中枢神経系を侵され、最後は眠っているような状態になり死に至ってしまうんだ。
治療法はあるの?
毒性や副作用のあるヒ素系の治療薬が今も使われているのが現状で、治療中に約1割もの方々が命を落としているんだ。
この感染症の治療薬の開発に挑まれているのが、東京大学 北先生、京都工芸繊維大学 原田先生(※)の研究グループ。
トリパノソーマが人の血液中で増え続けるときにシアン耐性酸化酵素(TAO)と呼ばれる酵素が不可欠で、このTAOの働きを阻害できれば、トリパノソーマをやつけることができ、治療が可能になるんだ。
先生たちは、TAOを阻害する化合物"アスコフラノン"について調べたところ、アスコフラノンがトリパノソーマの増殖を抑制することが分かり、トリパノソーマに感染させたマウスやヤギに注射をすると、ヤギは一晩、マウスは30分で完治したそうだ。
それじゃすぐに治療薬ができるのね?
TAOの詳しい構造や、アスコフラノンがどのように結びついて、TAOの働きを抑えるのかが分からなかったんだ。このままでは治療薬にならないんだ。
そこでSPring-8の強力なX線で構造を見てみると!!
TAOの表面に薬剤と結合しやすい「カギ穴」構造があることが分かったんだ。
このカギ穴にぴったり合うアスコフラノンでカギをかければTAOの増殖を抑制できると確認できたんだよ。
構造が分かったので治療薬の開発が進むといいね。
TAOとアスコフラノンの構造が分かったことで、TAOのカギ穴にもっとピッタリはまるアスコフラノン類似化合物をドラッグデザインできるようになったそうだ。だからこの後は、デザインした化合物の中から、毒性が強い現在の薬に代わる、アフリカの高温でも冷蔵保存を必要とせず、安くて安全で、かつ十分な医療環境が整っていない地域でも使い勝手のよい飲み薬として使えるものを探されるそうだ。
本成果は、SPring-8 NEWS 9月号で研究成果・トピックスとして取り上げられる予定です。こちらもぜひご覧ください。
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生命科学・バイオテクノロジーシリーズ
2013年7月 8日 09:12