研究成果について

- SPring-8 未来のエネルギーシリーズ - 燃料電池開発編

- SPring-8 未来のエネルギーシリーズ -
イラスト1SPring-8を活用して行われている、私達の生活を支える為のエネルギー開発について紹介します!2011年の震災以降、私達の身の回りのエネルギーのあり方について改めて見直す動きがあるね。
SPring-8でも、より良いエネルギー社会をつくりだすために、色々な分野の科学者や企業の皆さんが、色々な側面から日々実験を進めているんだよ!

燃料電池開発編

イラスト2 イラスト3みんなは、リチウムイオン電池のような充電を繰り返して使える電池の他に、燃料を供給し続けることで長時間使う事が出来る電池があるのを知っているかな?*1)

 燃料を供給して使ってしまったら、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOX)のような環境に悪いものが発生してしまいそうだけどなぁ

 [燃料電池]は、水素(H2)と酸素(O2)の化学反応によって生まれる電位差を電力として取り出す電池だよ。火をつけて燃やすわけではなく、【水素(H2)】を化学反応させるから、発生するのは、水(H2O)と熱だけなんだ。燃料電池、と言うと聞きなれないかもしれないけれど、皆のお家に付けられ ている【エネファーム】*2)というシステムも都市ガスから取り出した水素を燃やして電気とお湯をつくる燃料電池の一つだよ。

 テレビでもやっているね。ぼくの家もエネファームを使っているって、お母さんが言っていたよ。
 エネファームはとても大きくて持ち運ぶのは難しいけれど、電池の一種なんだね。でも、電気を作って、水と熱しか排出しない電池って、とても良いことだよね!

 そうだね。燃料電池は、国の様々なエネルギー対策*3)の中で重要性・必要性を取り上げられていることからも、私達の生活や地球全体にとても有効な性質を持っていることが判るよね。
 実際に、民間企業だけではなかなか実用化に持ち込めないような重要技術を社会に早く普及するように努める機関、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)も、燃料電池の一種、【固体高分子形燃料電池(PEFC)】の[実用化推進技術開発]プロジェクトを立ち上げて、産官学の手をつなぐ活動をしている。まだまだ高価な燃料電池の生産を低コストにして、更に、より高効率で安全な電池をつくろうという動きが加速しているんだ。
 そして、ここでもSPring-8の活躍が期待されているんだよ。
 まずは、燃料電池の大まかな仕組みを見てみよう。

図1

イラスト5 電気が出来る仕組みは良く判ったし、何より燃料電池って、エンジンやタービンみたいな機械エネルギーが無くても電気を発電できるんだね!結構、仕組みは単純なんだね。ぼくにも作れそう! SPring-8で調べなくても、大丈夫なんじゃないかな?

 いやいや、実は、こういった簡単な仕組み“しか”判っていないから、燃料電池は、利用されていないんだ。もっと低コストで、小さくても効率の良い電池を作る為には、燃料電池の仕組みをもっと細かく明らかにしなくてはならない。
 例えば、電極に使われている『白金』。これはわかっている中で一番効率よく電子のやりとりを加速してくれる素材だけれど、とても高価だ。別の素材に代えたいけれど、『白金』がどのように電子を受け取っているのか、どうして効率よく電子をやりとりできているのか、が判らない。
 さらに、何といっても燃料電池は密封された水がある状態の箱の中で反応するから、それらの観察が難しい。

 確かに、それは難しそうだねぇ。密封された箱の中で何が起こっているのかを見ることだけでも出来そうにないよ。

 そこで、SPring-8の高輝度な放射光を用いた、XAFS法という手法を使うんだよ。XAFS法というのは、SPring-8が世界最高レベルを誇る手法で、これならば密封された箱の中で燃料電池が動いている状態での電極材料(白金)の構造やそこで起こっている反応が計測できるんだ。
 そして、今、その最高レベルのXAFS法に特化した新しいビームライン*4)を電気通信大学燃料電池イノベーション研究センターさんがSPring-8に建設している。今年、2012年の秋には稼働する予定だ。同センター長の岩澤康裕先生*5)は、『燃料電池は水が存在するウエットな環境にある。従って、他の解析法のように触媒を取り出し、“干いた状態”を分析しても本当のことは分からない。燃料電池を理解するためには、燃料電池が作動している“生きた状態”を評価することが何よりも重要だ。その評価が出来る新ビームラインは、最先端の技術の結晶であり、このビームラインでの研究によって、燃料電池の生きた動きが解明されるだろう。この成果は、燃料電池自動車の実現にも貢献し、資源、エネルギーに乏しいわが国に大きく貢献すると期待されるものだ。』と話されているよ。
 燃料電池に秘められた謎が解かれれば、電池だけに限らず、大きな社会的効果を産み出しそうだね。

イラスト6 エンジンもタービンも使わずに電気が出来て、水と熱しか出さない電池、、、色々なことに使える電池になったら、ぼく達の生活が抱えている問題をたくさん解決してくれるね。
 SPring-8での燃料電池の研究がどれだけ重要で、ぼくらの生活を安心安全なものに近付けることに繋がっていくか良くわかったよ。

 

*1) 電池の種類
電池は、まず、何らかの化学反応を使う[化学電池]と光が当たることによって電荷を産み出して電気をつくる太陽電池などの[物理電池]に分かれる。化学電池は、その性質によって次のように分類される。

図2

*2) エネファーム(ENE・FARM)とは
2008年燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が、家庭用燃料電池コジェネレーションシステムの愛称。家庭用燃料電池の認知向上を推進する取り組みとして決定された統一名称。

*3) エネルギー革新技術計画(2007)、新成長戦略(2009年)、アクションプラン(2011年・総合科学技術会議)、また、 2011年度の科学・技術重要施策のエネルギー利用省エネ化でも取り上げられている。

*4) 先端触媒構造反応リアルタイムXAFS計測ビームライン
(先端構造触媒反応リアルタイム計測ビームライン BL36XU)
電気通信大学燃料電池イノベーション研究センターが、NEDOプロジェクトの一環で、次世代燃料電池開発の為に建設した。
2012年9月稼働予定。独自に開発した、世界最先端の時空間分解XAFS(XAFS:X線吸収微細構造)計測技術とSPring-8の放射光を使い、燃料電池自動車、定置コジェネレーションシステム(エネファーム等)、可搬電源、情報機器用電源等として期待される燃料電池(固体高分子燃料電池)を普及させるための課題解決を目指す。

*5) SPring-8研究者インタビュー 2012年度第1弾参照(SPring-8 Channel)

もっと詳しく知りたい方はこちら
研究者インタビュー

カテゴリエネルギー・環境シリーズ投稿日2012年5月24日 09:08